沢木耕太郎さんの代表作『深夜特急』。若い頃に夢中になって読んだ人は少なくないのではないでしょうか。もちろん私もその一人です。
あの本は、単なる旅行記ではありませんでした。 地図の外へ、自分の知っている世界の外へ出てみたい――そんな衝動を静かに、でも確実に植え付ける一冊でした。振り返れば、私が少し「道を踏み外す」きっかけになった本でもあります(笑)。
バイクで駆け抜けるもう一つの旅『珍夜特急』
その『深夜特急』のタイトルをもじった作品に、クロサワ コウタロウさんの『珍夜特急』があります。こちらは、バイクでインド・カルカッタからヨーロッパまでを駆け抜ける旅の記録です。
実はこの『珍夜特急』を読んでいて、私は妙な既視感に何度も襲われました。 というのも、この作品が描いている時代とほぼ同じ頃、私自身もインドを一人で旅していたからです。
ページをめくるたびによみがえる、あの頃のインド
作中には、実際に私が知っていた人物や、泊まったことのある宿、見覚えのある街の空気が次々と現れます。
「ああ、この感じだった」 「この人、いたいた」
ページをめくるたびに、当時の記憶が鮮烈に呼び起こされました。
インドという国は、おしゃれなカフェや洗練された街並みを楽しむ旅とは全く違います。 予定通りにいかないことの連続で、暑さも、喧騒も、人との距離感も本当に濃密です。
でも、その混沌の中に身を置いていると、不思議と生きている実感が強くなる。 旅というより、世界そのものに生身で触れている感覚に近いのかもしれません。
読むだけで人生が少し「横道にそれる」読書体験を
「海外に出てみたかったけれど、仕事や家庭でその機会がなかった」という方にとっても、『深夜特急』や『珍夜特急』には独特の魅力があります。
実際に行かなくても、読むだけで人生が少し横道にそれる。
そんな余白をくれる本が、たまにはあってもいいと思うのです。