ベトナムが好きだからこそ考える:育成就労制度と「家族帯同禁止」

日本とベトナムの交流が深まる中、新しい在留資格制度である育成就労制度(技能実習制度の後継)においても、原則として家族帯同が認められない予定です。
家族が離れ離れになることについて、「人権上大きな問題だ」という意見もあります。
確かに、家族が一緒に暮らせないのは悲しいことです。
しかし、この「家族帯同禁止」は、むしろベトナムをはじめとする外国にルーツを持つ子どもの未来を守るための、苦渋の決断という側面があることを、私たちは知っておくべきです。

数年の滞在が生む「教育の空白」という深刻な問題

仮に、数年間の滞在のために子どもを日本に帯同した場合、直面する最も深刻な問題は「教育」です。

近年、日本国内では外国人居住者の増加に伴い、公立学校に通う外国人児童生徒が増加しています。
特に自動車関連の工場が多い愛知県などでは、日本語指導が必要な外国籍の子どもの人数が全国で最も多い状況にあり、その中には多くのベトナム人家庭の子どもがいます。
例えば、大阪市内の保育園では、園児の約4割をベトナム人の子どもが占める事例も報告されています。

来日したばかりの子どもたちが直面するのは、まず「言葉の壁」です。
小学校の低学年であれば教師が外国語を話さなくても、実物に触れる体験を通して比較的スムーズに日本語を覚え始める高い順応性を持っています。
しかし、これは主に日常生活で使う「生活言語」であり、学習に必要な抽象的な概念を扱う「学習言語」を習得するのは非常に難しいのです。

具体的に見ると、外国にルーツを持つ多くの子どもは、漢字(小学2年生でつまずくケースが多い)や算数(例:日本特有の九九の習得や、位取りの理解)で遅れが生じ、学業不振に陥ります。
日本生まれ日本育ちの子どもが小学校入学時に約3,000語の語彙を獲得しているのに対し、外国から来た子どもは1年生の段階で100語に満たないことが一般的です。
この差を埋めるには、親子での想像を絶する努力が必要です。

ダブルリミテッドと帰国後の苦痛

さらに深刻なのは、数年間の滞在後に帰国するケースです。
子どもが日本語習得に苦労する中、家庭内で母語の教育を十分にされていない場合、ベトナム語も日本語もどちらも十分に発達しない「ダブルリミテッド」の状態になってしまうリスクがあります。
仮に、数年間必死に頑張り、ようやく日本の学校の授業についていけるようになったとしても、そのタイミングで母国に帰国すれば、今度は母国語での学習についていけなくなるという「教育の空白」が生じます。
その子の人生にとって、これは非常に大きな痛手です。
かつて日本に滞在した日系人の子どもたちの中には、中学校の勉強についていけずに高校進学を諦め、単純労働者にたずさわるしかないという状況に直面した事例もあります。

数年の滞在のために、子どもにこうした深刻な教育上の混乱と、帰国後の学習困難を味合わせることは、親にとって耐えがたい苦痛でしょう。
永住を前提としない数年間の滞在であれば、子どもの健全な発育と安定した学習環境を優先し、単身赴任で仕送りを続けるという選択こそが、結果として子どもの人権にかなうという考え方もできるのです。



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